硝子体手術

当院で受けられる手術治療、及び特殊な治療

硝子体手術

黄斑前膜、硝子体出血、糖尿病網膜症といった病気では、場合によっては眼内の硝子体を切除する硝子体手術が必要となることがあります。硝子体手術は、眼科手術の中でも難易度の高い治療です。当院では、手術適応をしっかりと診断したうえで、日帰り手術が可能な方に手術を行っています。(参照;硝子体手術とはどんな手術?)また、術後に体位の制限が必要な場合や、難症例の場合には、積極的に入院設備のある病院へご紹介しております。その際には、退院後の経過観察を当院で行いますので、遠方の病院へ通院し続ける必要はございません。

硝子体手術手順

硝子体手術のイラスト図。硝子体を切除するカッター、眼内を照らすライト、それに眼内に灌流水を流す針を入れ、眼内に水を流しいれながら、硝子体を切除し吸引(青矢印)していきます。当院では、小さな切開で済む器械(差し込む器械の直径は約0.5mm)を使って行います。直径約24mmの小さな空間内での手術ですので、繊細な操作が要求されます。

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硝子体手術とは・・・
スキューバダイビング!?

水晶体の手術と、硝子体手術の違いのイメージ。どちらも同じ眼を対象としますが、水晶体の手術はシュノーケリング、硝子体手術はスキューバダイビングといったところです。どちらが簡単かという問題ではなく、対象物の違いに対して、適切な戦略と戦術、それと装備が必要で、それをしっかりと使い分けることが重要です。

一概に眼の手術といっても、白内障手術から硝子体手術まで様々な手術があります。どの手術も一定の訓練と経験が必要ですが、一般の方からするとその区別はつかないと思います。詳細な手術方法は、他の媒体をご覧いただければ分かると思いますが、院長の私が持っているイメージでいうと、白内障手術はスノーケルを用いた素潜り、硝子体手術はボンベを背負って潜るスキューバダイビングといったところでしょうか。素潜りとスキューバダイビングでは、対象は同じ海でも、トレーニングの仕方は異なるように、眼の手術でも、その対象によって戦略戦術は異なります。硝子体手術を行うには、それ専用の器械が必要で、具体的には、卵の白身に似た硝子体を切除し吸い出すためのカッター、暗い眼内を照らすライト、それに、眼内に灌流水を送り込む針の三つの器械を出し入れし、手術を行います。

日帰り硝子体手術の良い適応疾患

黄斑前膜、硝子体黄斑部牽引症候群

網膜の最も大切な黄斑部に余計な薄い膜が張る病気です。比較的良くある疾患です。黄斑前膜があれば必ず手術するということはなく、それにより、変視(モノが歪んで見えること)があったり、視力低下していたりしているようならば手術の適応となります。黄斑前膜の程度に関しては、当院にあるOCT(網膜光干渉断層装置)を用いると、その状態が一目瞭然にわかります。

黄斑前膜があると、どのように見えるのでしょうか?

正常な見え方

これは、アムスラーチャートといって、格子状の模様を片目ずつ見て検査します。通常は、この正方形の格子模様を見ても、歪んだり、欠けたりしたところはないはずですが、黄斑前膜があると、右のような見え方になることがあります。

黄斑前膜による変視後の見え方

黄斑前膜があって、変視がおこると、このような見え方になることがあります。上記はかなり極端な例ではありますが、患者様は、両目で見ると気にならないが、片目で良く見ると歪んで見える、といった表現をすることが多いです。

当院で治療した一例

64歳男性。前医で黄斑変性症と言われ、その後当院に受診されました。初診時の視力は(0.6)でした。
網膜の構造が乱れ、視力も低下していたため、当院で日帰り硝子体手術を行いました。当然、麻酔はしますが、眼球周囲と眼球の奥に麻酔薬を注射で行います(球後麻酔)。手術は、35分程度で終了しました。

  • これは当院にあるOCT(網膜光干渉断層装置)です。とても高価な器械ですが、抜群の働きをしてくれます。先の震災の際、器械が台から落下しないように、スタッフが真っ先に支えに走ってくれたくらい、大切な器械です。

  • 初診時の眼底写真です。右記の解説のように、眼底の網膜上に厚ぼったい黄斑前膜があり、網膜の構造が変形しています。

  • 初診時の眼底写真の解説。

  • 初診時のOCTの画像です。右記の解説のように、網膜特に黄斑部に付着した膜が、網膜を引張り上げ、網膜の構造が乱れてきています。その為に、患者様は、物が歪んで見える症状がでてきていました。

  • OCT画像の解説。
    網膜に付着した膜が、網膜を白い矢印の方向に引っ張りあげています。

  • これは、正常者の黄斑部のOCT画像です。整然とした層状の構造を成しており、うっとりするくらい綺麗です。これが正常とするなら、左記の写真の網膜が著しく変形していることが良くわかると思います。

  • 手術前の眼底写真

  • 手術後の眼底写真です。網膜の前に張っていた膜は綺麗に除去されており、網膜のシワも伸びて、清々とした眼底になりました。

  • 手術前のOCT画像

  • 手術後のOCT画像

硝子体出血

硝子体出血の原因は様々ですが、しっかりとレーザー治療がなされてある糖尿病網膜症に伴う硝子体出血や、網膜剥離を伴わない網膜裂孔による出血が主な原因として考えられます。出血は、結果であり原因ではないので、まずは出血の原因を探り、原因疾患の治療を第一とします。その上で、出血が引かない場合(およそ3ヶ月を目安とします)手術の適応となります。

糖尿病網膜症

糖尿病患者における糖尿病網膜症の有病率

糖尿病患者における糖尿病網膜症の有病率

  • 久山町研究:40歳以上の住民を対象に実施
  • 舟形町研究:35歳以上の住民を対象に実施

現在、本邦で800万人が罹患しているともいわれる糖尿病の眼合併症である糖尿病網膜症。いきなり硝子体出血をきたすわけではありませんが、無治療で長期間経過してしまうと、出血して急激に視力低下することがあります。この場合、現疾患である糖尿病の治療を含め、複合的治療を行わなくてはならず、しかもこの段階で初めて眼科受診となると、視力予後が不良なことが多いです。現在は、検診も充実しており、また、手術以外の治療(例えば、硝子体内注射;後述)もあるので、手術に至るまで幾重にも治療をすることができます。しかし、各種治療を行っても残存する硝子体出血は、手術の適応となります。

糖尿病の三大合併症の一つである糖尿病網膜症ですが、グラフにあるように、糖尿病があれば必ず網膜症になるわけではありません。また、糖尿病網膜症の進行は、単純網膜症、増殖前網膜症、増殖網膜症と、階段を一段ずつ登るように進行し、決して飛び級のように一足飛びに悪化することはありません。(急に悪化したように感じるのは、徐々に進行した網膜症で、パッと出血した際に、急激に視力低下することがあるからです。) ですから、糖尿病を患っているなら、定期的に眼底検査を行うことが重要です。

定期検査の頻度

定期検査の頻度。ステージが上がれば上がるほど、密に診ていく必要があります。網膜症が進行しないためには、しっかりとした血糖コントロールが必要です。単純網膜症までの段階であれば、コントロールが良好ならば、それに比例して眼底の状態も良くなりますが、増殖前網膜症以降は、血糖コントロールとはあまり関係なく、眼の症状が暴走し始めます。この暴走の前の段階で進行を止めることが、重要となります。

網膜症の自覚症状

網膜症の初期には、ほとんど自覚症状がでません。末期に近づくほど、急激に自覚症状を感じ始めますが、自覚症状が出てからの治療は、後手に回りがちです。

糖尿病網膜症の治療方法

糖尿病網膜症の最大の治療は、まずは血糖コントロールです。これは、患者様ご自身と内科の先生で頑張っていただくしかありません。その経過の中で、徐々に合併症である網膜症が進行してきます。先述のとおり、糖尿病網膜症は一段ずつ悪くなってきますので、患者様の眼が現在どの状態にあるかしっかり見極めることが重要です。その上で、進行していく網膜症に対して、その都度適切な治療を選択し、実施していきます。一昔前までは、糖尿病の網膜症の治療はレーザーか手術の2つしかありませんでしたが、近年、硝子体内注射が登場してからは、従来難しかった黄斑浮腫の治療がしやすくなり、治療する際の強力な武器が増えました。

当院で治療した一例

57歳男性。最近、急に見えなくなったと訴え当院初診されました。初診時、視力は既に手動弁(目の前で手を振っているのがようやく分かる程度)まで低下していました。眼内は、硝子体出血をおこしていました。幸い、糖尿病のコントロールは内科でなされており、また、以前にレーザー治療も受けていたこともあり、手の付けられない暴れ馬状態という訳ではありませんでした。

血糖コントロールはそこそこ良好ではありましたが、内科の担当医と全身状態のついて協議したうえで、手術可能と判断し、当院で日帰り硝子体手術を施行しました。眼球周囲と眼球の奥に麻酔薬を注射で行い(球後麻酔)、手術は、60分程度で終了しました。

  • 初診時の眼底写真。視神経乳頭が薄ぼんやりと見えていますが、眼内は血だらけでした。視力も、眼の前で手が動いているのをやっと判別できる程度まで低下していました。

  • 青い○で囲まれた部分が視神経乳頭です。右の正常眼底写真に比べるといかに眼内に出血(緑線で囲まれた部分)が多く、濁った状態であるか分かると思います。

  • 正常の眼底写真。血管がスッと伸びており、とても綺麗です。

  • 手術前の眼底写真。視力、手動弁の時。

  • 術後の眼底写真。薄ぼんやりしか見えなかった視神経乳頭がくっきり見えています。視力も(1.2)まで回復しました。本症例は、手術前にレーザー治療や、糖尿病の治療がある程度なされていたため、眼底出血で急激に視力が低下してしまいましたが、手術によって良好な経過を得ることが出来ました。しかし、全くの無治療でいきなり眼底出血を来してから眼科受診すると、この症例のようなHappyな経過をたどることは稀なので、糖尿病を患っているときは、必ず定期的な眼科受診をするように心掛けてください。

硝子体内注射

本邦における中途失明の原因のトップ3は緑内障、糖尿病網膜症、網膜色素変性症で順位の変動はありますが、その内容は不変で推移してきましたが、近年、欧米における中途失明主要な原因疾患であった加齢黄斑変性症が本邦でも増加してきました。ほんの10年前までは、この加齢黄斑変性症に罹患してしまった場合、視力を回復させることは困難なばかりでなく、維持することすらできませんでした。しかし、加齢黄斑変性による視力低下の主因となる脈絡膜新生血管の成長をを活発化させるVEGF(血管内皮増殖因子)という物質の働きを抑える薬(抗VEGF薬;ルセンティス、アイリーア)という薬の登場で、今では視力を維持し、場合によっては回復すらできる時代になりました。当院では、東京大学医学部附属病院の黄斑外来と診療連携し、積極的に抗VEGF薬の硝子体内注射を行っています。

詳しくはこちら「硝子体注射による目の治療」

 

視覚障害者手帳交付の原因疾患

  1. 第1位緑内障
  2. 第2位糖尿病網膜症
  3. 第3位網膜色素変成
  4. 第4位黄斑変成症
  5. 第5位高度近視

本邦における、中途失明のトップ5です。平成18年の統計では、日本における視覚障害者数は約31万人とされ、決して少ない数ではありません。この表のトップ5のうち、糖尿病網膜症、黄斑変性症、及び高度近視の一部に対して、硝子体注射は有効な治療となりえます。一昔前までは、有効な治療が少なく、図らずも視覚障害に陥ってしまっていた疾患が、硝子体注射の登場で、今では十分互角に闘える疾患になってきました。

当院における硝子体内注射の特徴

  • 1

    東京大学附属病院黄斑外来との提携

    大病院のハードとマンパワーを生かしつつ、クリニックのフットワークの軽さを生かせます。

  • 1

    手術室内でしっかりとした消毒後の施行、術後管理

    普段、白内障や硝子体手術を行っている手術室で、それら手術に準じた消毒を行っています。

  • 1

    十分な経験

    年間130例を超える治療を行っています。(2015年実績)

  • 1

    大病院に匹敵する設備

    光干渉断層計(OCT)、フルオレセイン、及びインドシアニングリーン蛍光眼底写真を完備しており、診断、治療後の経過観察をしっかり行えます。

黄斑について

眼の構造

我々が物を見るとき、下の図のように前方からの光を、角膜と水晶体で集光して目の奥の黄斑といわれるところに焦点を結び、光の刺激を電気信号に変換して脳に送っています。この黄斑部とよばれる部分は、広さにして全網膜の1%に満たない大きさですが、視力をだすために最も重要な役割をしています。つまり、黄斑以外の網膜が障害をうけても、1.0の視力を出すことは可能ですが、たった1%の広さの黄斑が障害されただけで、視力は極端に低下してしまいます。

黄斑部の視野障害

黄斑部が障害されると・・・黄斑部が種々の原因で障害されると、物が歪んで見えたり(変視症)、見たいところの中心が見えなかったり(中心暗点)します。

変視症の例

直線が波打って見えたりします。片方の目が健常の場合、もう片方に変視症があっても気が付かないことがあります。障子や壁の格子模様や、パソコンでエクセルなどのセルをみていて違和感をおぼえて気が付くことが多いです。

中心暗点の例

見たい部分、視線の真ん中が見えづらくなります。程度によって、もやがかかったように見えると言ったり、色がはっきりしないと言ったり、見たい部分が全然見えないと言ったりします。見たい部分、視線の真ん中が見えづらくなります。程度によって、もやがかかったように見えると言ったり、色がはっきりしないと言ったり、見たい部分が全然見えないと言ったりします。

当院で治療した一例

68歳男性。1カ月前から急に見えなくなったと訴え当院初診されました。視力は(0.15)まで低下していました。左眼は網膜中心静脈閉塞症をおこし、眼底出血とそれに伴う黄斑浮腫が高度な状態でした。
早速、当院でアイリーアの硝子体内注射を行い、網膜浮腫を減じさせ、網膜の虚血も強かったので、レーザー網膜光凝固までおこないました。

  • 初診時の眼底写真です。視神経乳頭を中心として、火炎状に眼底出血が広がっています。

  • 黄斑部のOCT画像でも、高度の浮腫があり、網膜が厚ぼったくなっています。

  • 旺盛だった、眼底出血が徐々に軽快しつつあります。黄斑部の浮腫も大分軽減し、黄斑の陥凹がもどってきました。

  • 結局、浮腫が軽減するまで、当院で4回の硝子体内注射を行い、治療開始から9か月で最終視力(0.4)を保つことがで、眼底写真、及びOCTの所見もここまで回復することができました。

当院で治療した一例

82歳女性。東京大学医学部附属病院黄斑外来で、ポリープ状脈絡膜血管症(従来、加齢黄斑変性症と診断されてきたものの中に、自然経過も治療成績も異なる病態として、新にカテゴライズされた疾患です。)と診断され、当院に硝子体内注射による治療を目的として紹介されました。
この病気の特徴として、複数回にわたり注射を継続していく必要があります。この方も、当院でアイリーアの硝子体内注射を症状が悪くなる度に行っています。

  • 初診時の眼底写真です。ドルーゼンと呼ばれる網膜下の老廃物(黄色の粒々したところ)が溜まっている所見が、散在しています。

  • 黄黄斑部のOCT画像では、黄斑の陥凹は比較的保たれていますが、黄斑下にお水がたまり、漿液性網膜剥離を起こしています。

  • 硝子体内注射を行うと、網膜の下に溜まっていたお水はなくなり、網膜の形態は、正常に近くなります。この硝子体注射が行われるまでは、この疾患で良好な視力を維持する事は至難の業でしたが、この方は、定期的な硝子体内注射のお蔭で、1年以上にわたり(0.8)以上の視力を維持し続けることができています。

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