白内障手術は眼を切開し、そこから濁った水晶体を超音波で砕いて吸い出し、その代りに人工の水晶体である眼内レンズを入れる方法で行われます。
当院における白内障手術の流れを、実際の手術画像をもとに、ご説明いたします。
十分に点眼による局所麻酔をしたうえで、手術を開始します。鋭利な使い捨てのメスを使い、1mmに満たない創口(サイドポート)を作成します。メスの反対側に攝子(白丸)をあてがい、綺麗な創になるように注意します。
一つ目のサイドポートの反対側に、もう一箇所サイドポートを作成します。一つ目と同様に、反対側に攝子をあてがいます。
主にヒアルロン酸ナトリウムからできている粘弾性物質とよばれるゼリー状の物質を眼内にいれます。これは、いわゆるクッション材の役割をはたし、この操作の後に続く手術操作の侵襲から、眼内の組織を守る働きをします。画像の眼内に映る、ムニョムニョした影が粘弾性物質です。分子量の違いにより、働きが違うため、当院では、分子量の違う2種類の粘弾性物質を使用し、より低侵襲な手術になるように心がけています。
水晶体の前面の皮(前嚢)を丸く切開します。サイドポートから、先端を折り曲げた小さな針を眼内にいれ、図のように円形に切開します。画面黄色に囲まれた部分が切り取った前嚢(フラップ)で、赤色の曲線が、切開線になります。この大きさが、大きすぎても小さすぎても都合が悪く、繊細な技術が要求されます。
主に手術操作を行うための創口を作成します。当院では、創口幅2.4mmの使い捨てメスを使用しています。この後に続く操作を行う、大事な創なので、サイドポート作成時と同様、メスの刺入部の反対側に攝子をあてがい、綺麗な創を形成します。このようにしっかりと作成した創は、手術後、自己閉鎖といって、縫合しなくても傷がピタッとくっつきます。
水晶体嚢(水晶体を包んでいる皮)と水晶体皮質の間に細い先端が丸い針を差し込み、水を流す事によって、皮質と嚢を分離します。上記写真中の赤線が水晶体嚢の切開線で、その少し下に針を滑りこませて、水を注入し始めた時の画像です。水は、イメージ図のように、水晶体の後ろまで周りこみ、この操作の後には、水晶体は嚢の中で、可動性をもつようになります。簡単な操作のように見えますが、弱すぎると次の操作に支障がでますし、強すぎると眼内の圧が高まり、思わぬ合併症をきたすことがあります。シンプルですが、適切な力加減が必要で、玄人の技が必要です。
この画像は、前の操作と次の操作の5秒程度のいわば小休止の瞬間ですが、手術の最中に照明が不要の時には、こまめに照明を消すようにしています。明るい光で照らし、しっかりと見えないと安全な手術はできませんが、患者様にとっては眩しく、辛い時間でもあります。数秒とはいえ、照明が不要なときには消灯し、眼に優しい手術を心掛けています。
水晶体嚢の中身を吸引します。主創口から超音波乳化吸引装置(白丸)を眼内に挿入します。眼内に水を注入しながら、中央の金属部分が前後左右に振動し、水晶体を砕き、吸い出します。眼内での操作をアシストするために、サイドポートからフック(青丸)を挿入し、狭い眼内空間で、繊細な操作を行います。画像の中の赤い部分は既に吸い出されたところで、黄色い部分がこれから吸い出す部分です。この時、眼内は速い水流と、砕いた核片が激しく動きますが、眼内に入れておいた粘弾性物質がクッションの働きをし、眼内の組織たちを保護しています。
水晶体嚢のこびりついた、水晶体皮質を吸い出しています。先ほどの超音波乳化吸引と違い、器械の先端に小さな穴が開いたストローのような構造で、皮質を吸い出していきます。画像中赤い部分は、すでに皮質を吸引したところで、黄色い部分が、残存した皮質です。術後の見え方を左右するところですので、嚢にこびりついた皮質を丁寧に、しっかりと除去します。
ここで再度、眼内に粘弾性物質を注入します。一回目と違い、今回は次の操作で眼内にレンズを入れる際の空間を保持することを主目的として、粘弾性物質を使います。水晶体嚢の中にムニュムニュとした影が見えますでしょうか。
眼内に挿入する眼内レンズの準備をします。眼内レンズはアクリル製で、レンズ部分(黄色円)の直径が6mmあります。そこから、2本の脚(赤色)がでています。レンズを挿入する創口は幅2.4mmですから、そのままでは入らないので、細い筒(カートリッジ:白丸)にレンズを丸めて入れ装填します。これら操作中は、やはり眼に余計な光を入れないために、消灯して行っています。また、レンズそのものが黄色く見えると思いますが、これは術後、眼内に有害な光が不必要に入らないよう考慮されたレンズの為で、レンズ自体が黄色く着色されています。
眼内レンズが装填されたカートリッジを主創口から挿入し、眼内に眼内レンズを入れます。眼内レンズは、アクリル製なので、柔らかくカートリッジ内の細い空間を丸まりながら、眼内に押し出されます(黄色部分)。この時、押し出す力(赤色矢印)は、器械的にコントロールされており、眼内に一定スピードで、安全に眼内レンズを射出することができます。この自動で眼内レンズを射出する機能を持った器械を、当院ではいち早く導入し、安全に手術を行っています。また、眼内にレンズを挿入する際に、眼外の細菌を一緒に眼内に持ち込まないように、眼内レンズ挿入前に、再度、眼表面の消毒(青色矢印)を行い、無菌的状態で、操作を行います。
手術の最中、眼内の細胞を手術の衝撃から守っていた粘弾性物質ですが、術後は不要ですから、それらを吸引除去します。挿入した眼内レンズの上だけでなく、眼内レンズの裏面も入念に吸出します。術者である院長は、今まで術後に化膿性眼内炎(手術によって、眼の中に細菌が入ってしまった状態)を起こしたことはありませんが、微小とはいえある確率で起こり得る合併症です。それを予防するためにも、眼内をしっかりと洗浄し、手術を終了するようにしています。画像は、器械をレンズ(黄色)の下方にすべり込ませて、レンズ下を綺麗にしているところです。
手術が終了しました! 綺麗に眼内レンズ(黄色)が眼内中央に固定され、3箇所の創口(赤)も、無縫合でキッチリと閉鎖しています。この後、眼外に化膿止めの軟膏を塗布し、眼帯をします。10分未満の時間とはいえ、患者様にとっては長く感じられる時間でした。患者様の苦痛をなるべく減らし、かつ手術の成功率を最大限にまで高めるために、小さな工夫を積み重ね、より完成度の高い手術になるように努力しています。
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