眼科における理想の器械、もしくは設備とは何でしょう?
眼科という診療科は、実は器械がないとほとんど何もできない科です。内科の先生は、患者さんの顔色や全身状態からある程度の事を想像できるし、整形外科の先生も、四肢の動きから患部の状態を推測できると思います。
しかし、眼は非常に小さな臓器なので、器械で拡大して診察しないと詳細を知ることは難しく、治療をするにしても、点眼や手術処置に何らかの器械が必要です。そのような科の特性を簡単な式に表すなら、以下のようになると思います。
“眼科の実力=医師の実力+器械の性能”
これは、眼科医としてはとても恐ろしい公式です。何十年も修行して、一生懸命所見を観察して想像した患部の状態が、新しい器械の出現で、誰が撮影しても、誰が見てもパッと分かってしまうようになった、ということがしばしば経験されます。
つまり、名人芸がある器械の出現を境に一機に陳腐化してしまう。そのような事が比較的頻繁に起こるのが“眼科”ということになります。
では、絶えず最新の器械を導入し続ければよいのでしょうか?
この解決策には大きな問題が二つあります。
コストの問題
私が開業する前、500床以上ある市中病院に勤務していた際、眼科診療に必須になりつつあったOCT(光干渉断層計)という器械を導入するために、その器械がいかに有用かということを示す膨大な資料を提出し病院に働きかけても、実際に購入してもらうまでに何年もかかったということがありました。いわゆる大病院と呼ばれる病院ですら、有用である器械を即導入、という訳にはいかないのが現実でした。
新しい器械を使いこなすには
時間がかかる
多くの器械が示してくれるのは、単なるデータです。そのデータがちゃんと測定されて得られたデータなのか、測定誤差なのか、そのデータをどう評価して診断に生かすのかは、医師がやることなのですが、何がノイズで何がシグナルかを見分けることができるまでには経験が必要です。また、実際に器械を操作するスタッフ教育も含め、有効に活用するにはどうしても時間が必要なのです。
このような環境下で眼科として優れたパフォーマンスを発揮し続けるには、どのようにすれば良いのでしょうか?
この問いかけに対する解答こそが、私が考える理想の設備、ということになります。この理想を実現するには、3つの“べき”が必要と考えています。
理想を実現する3つの“べき”
その器械がなければ診察できない、という器械はいくらコストがかかっても導入すべき
前述のOCTという器械があります。
これは、目の奥の網膜という組織の断層像を非侵襲的に測定する器械です。1990年代後半には非常に高価な器械で大学病院にしかないような器械でしたが、今ではコスト下がり、かつその器械を使った診断技術も出揃ってきました。
このような器械は、なくては診断できない器械として、揃えなければいけないと考えています。
診療に使う器械は、使いやすい器械を導入するべき
この“使いやすい”というのは非常に主観的でありますが、重要なことだと考えています。例えば、手術で使う顕微鏡があります。別項のコラムでも書きましたが、当院では、ドイツのZEISS(ツァイス)社製の顕微鏡を使っています。
術用顕微鏡は、国産も含め多数の会社がいろいろなモデルのものを作成していますが、何をもって最新とするか、何をもって最良とするか、判断するのが難しいです。その際に重要なのが、“使いやすい”という感覚です。しっくりと手に馴染み、しっかりと見える、これらの感覚を満たしてくれる器械が(その使用者にとっての)ベストだと考えています。そして、そのような器械こそが、ミスや見落としを最小限にし、パフォーマンスを最大にしてくれると考え、導入すべきだと考えています。
自院にない器械についても、しっかりと勉強しておくべき
眼科診療に必要な全ての器械を、全て導入するというのはほぼ不可能なことです。大学病院レベルですら、そうはなっていません。
しかし、目の前にいらっしゃる患者さんを診察するとき、この器械があれば診断がつく可能性がある、とか治療できる、という情報はしっかりと持っておかなくてはなりません。ですから、自院に不足している器械がこの患者さんには必要であるとなったら、どこへご紹介すればよいかという情報も含め、絶えず自分の知識をブラシュアップしなくてはならないと考えています。